更年期障害の症状
平均的な閉経年齢は約51歳と言われていますが、その前後5年くらいを更年期と言います。つまり46歳から56歳くらいですね。更年期障害と言えばいろいろな症状があり、特に多いのはいらいら、不眠、肩こり、頭痛、のぼせ、冷えなどですが、その他にうつ症状やめまい、耳鳴りなどがあります。
更年期の時期は卵巣機能が低下して女性ホルモンが減少してくる頃です。女性ホルモンの変化が更年期障害の大きな原因と考えられますが、女性ホルモンを補充することですべてが解決するという単純なものでもないです。
更年期障害の症状を大別すると血管運動神経症状(のぼせ、冷え、動悸など)と筋肉症状(肩こり、頭痛、腰痛など)さらに精神神経症状(うつ、いらいら、不眠、やる気が出ないなど)の3つに分けることができます。
ホルモン補充療法は血管運動症状(のぼせなど)と筋肉症状(肩こり、頭痛)に対しては比較的効果がありますが精神神経症状は単に女性ホルモンが減少したと言うだけでなく外的ストレスや精神的要因が原因になっていることが多いのでホルモン剤だけで治す事はできません。
更年期障害の治療
更年期障害の治療としてはホルモン剤が有名ですが、ホルモン剤にはそれなりに副作用があるので、まずホルモン剤で治療するというより、漢方薬や運動療法などで何とかならないかと考えるのが健全だと思います。以前は婦人科ではホルモン剤を使うことが多かったのですが、血栓症などの副作用がだんだん無視できないような状況になってきているので(もちろん今でもめったにないですが 2017年現在)、まずホルモン剤というよりはまずその他の選択肢を考えることが最近は多いです(当院では)。
発汗やのぼせなどの血管症状や肩こりや肩こりから来る頭痛などの筋肉症状についてはホルモン剤はそれなりに効果があります。しかし多くの患者さんでは不眠やイライラなどの精神神経症状も同時にあって、これは単にホルモン剤を服用するだけでは治りません。特にうつ症状が出ている場合は、更年期障害だろうと考えてそのうち治るだろうと我慢するのではなく、早めの心療内科の受診をお勧めします。
例えばわけもなく悲しくなるとか、外に出られない、物事を悪いほうにしか考えられないなどのうつ的な症状がある場合は婦人科の治療で時間を浪費するのは良くないでしょう。もしかするとホルモン剤が効果があるかもしれませんが、それよりもまず心療内科や精神科でうつの可能性を考えて診察を受けるべきです。婦人科はそのあとで十分間に合います、これは更年期だから大丈夫と考えるのではなく、もしかすると精神の病気かもしれないとまず考えて下さい。僕の印象としては更年期症状が拡大解釈されてきているような気がします。
婦人科医としてはうつ症状がある場合は心療内科や精神科の治療と並行して、その他の雑多な更年期症状を漢方薬やホルモン剤で治療していくのが安心ですね。とにかくうつ症状が婦人科で何とかなると考えるのはやめていただきたいと思います。
そうはいっても雑多な症状があるので、どこを受診すればよいかわからないという場合は、婦人科に来院されるのもいいでしょう。症状を聞いて適切な診療科を紹介します。症状はまさに雑多なので、どういう場合はどの診療科が良いなどと書くのは難しいです。まずは相談のために受診するのが良いです。
とにかく婦人科で治せる更年期症状はのぼせや発汗がメインです。肩こりも難しい症状の一つです、頭痛となると治療できるのはごく一部という気がします。これがめまいや耳鳴りとなるとほぼ無理です。動悸も基本的には婦人科では治りません。
ただ一つだけ、ホルモン剤が結構効く精神症状があります、しかも結構多くの人が困っている症状ではないかと思うのが、「やる気が出ない症候群」です。これは必ずしもうつ症状とは限りません、こういうところがまたまた難しいところですが、単にやる気が出ないのは極めてホルモン的な症状ともいえます。女性ホルモンを使用することで、体が軽くなったり、仕事がはかどるようになったりとある程度活動的になることがあります。これは女性ホルモンの良い使い方かなと思います。問題はやめ時ですね。ある程度いい状態が続くと今度はやめられなくなります。やめなくてもいいのかなとは思いますが、やはり長期間では乳癌リスクも無視できなくなるので(血栓症リスクは長期間では少し下がってくるようです)、いつかはやめたがいいのかなとは思います。
更年期のその他の問題点
不正出血(更年期出血)
更年期になると生理が不順になります。間隔が長くなる場合もあれば、逆に短くなることもあります。そしてたまに不正出血があるようになるのです。このような場合はまず妊娠かどうかの検査を行います(もちろん妊娠の可能性があればですけど)。妊娠でなければ更年期出血のことが多いです。しかしここで問題なのは更年期の時期は子宮癌の好発年齢でもあるということです。不正出血があれば更年期出血の場合が多いですが、やはり必ず子宮癌検診をするべきでしょう。
子宮癌検診には子宮頚癌検診と子宮体癌検診があります。子宮の出口からの出血であれば頚癌検診が必要ですし、子宮の中からの出血であれば体癌検診が必要です。しかしその区別は付きにくいことがあるので両方の検診を受けるのがよいかもしれません。また、更年期出血の中には大量の出血を起こす場合があります。あまり大量であれば入院なども必要になるでしょうが、多くは止血剤と自宅安静でよいです。
更年期の避妊について
いったいいつまで避妊すればいいのか?というのはたまに聞く質問ではあります。明確な答えはありませんが、生理があるうちは妊娠の可能性はないとは言えないです。45歳を過ぎればほとんど妊娠しないとは思いますが、それ以上の年齢で妊娠してこられる方もいらっしゃいますので(まれですが)、閉経するまで避妊は必要ということになります。
じゃ、どういう避妊法がいいのかとなると、やはりピルでしょうか。更年期の治療にもなりますし、避妊もできるので一石二鳥ですね。ただしピルの説明書には40歳以上での服用は慎重投与になっています。おそらく後で説明するホルモン剤の副作用である血栓症や乳癌のリスクが無視できないと言うことだと思います。確かに一般的に更年期に使用するホルモン量よりピルのホルモン含有量は多いです。ただある程度普通に生理があるのであればピルでも問題はないと思いますので、医師と相談の上使用されるのが良いでしょう。
もしほとんどたまにしか生理がないというのであればピルで避妊するのはどうかと思います、それはすでにホルモン量が減少していることが考えられるので、ピルのような高容量のホルモン剤(低用量ピルですが、一般のホルモン剤より高容量です)では血栓症リスクが上がります。