妊娠初期のトラブルについて

妊娠中の出血

妊娠中に心配なのが出血です。妊娠初期にわずかの出血があることがありますが、ほとんどは絨毛(初期の胎盤のこと)が大きくなっていく過程で、子宮内膜との接合の問題などでわずかに出血しているのではないかと思います。この辺の正確な理由を調べた論文はおそらくないと思います。とにかく妊娠初期には結構軽い出血はあります。しかもそのほとんどは害のない出血です。害のある出血かどうかは結局胎児や胎嚢が順調に発育しているかどうかにかかっています。したがってエコー検査で胎児や胎嚢がちゃんと発育していれば多少の出血は気にすることはありません。

仕事も特にハードでなければ問題なくできます。当然家事をしてもよいですし、お子さんの送り迎えなども問題ないです。ただ出血があるときは念のため性交はしないようにして下さい。性交はもっとも子宮に対して刺激があります。それでも出血や切迫流早産さえなければ妊娠中に性交をしてはいけない時期はほとんどありません。

ただし流産するときも出血します。じゃどうすればよいのでしょうか、安静にすればよいのでしょうか?正直なところこの時期(妊娠16週ごろまで)の流産は止められません。それは胎児胎盤の問題のために流産するからです。つまり何か異常があるから流産するのです、その異常を例えば薬で治すことはできません。経過を見るしかありません。

妊娠中のおなかの痛み

妊娠中におなかが痛くなると実は結構困ります。産科的にはまずその痛みが子宮の収縮によるものかどうかが一番の問題なりますが、陣痛計をつけられるのは臨月近くになってからです、妊娠中期では陣痛計をつけてもおそらく何も波形は出ないでしょう(つけたことはないですが)、エコーを見て頚管長(子宮頚部の長さ)を調べますが痛くなってすぐに変化があるとは限らないので異常がなくても子宮の収縮ではないとは言えません。

しかも腹痛の原因はほかにもいろいろあります、最も多いのは腸の痛みです。単純にガスや便秘や下痢で痛くなることもあります、下痢の時は患者さんは生汗が出るほど苦しんで痛い痛いと連発されてもだえられることもあります(しばらくしてトイレに行って何事もなかったようにすっきりして帰って行かれることもあります)、それ以外にも虫垂炎や胆石、腎結石、果ては腸閉塞など場合によっては生命にかかわるようなものも鑑別(考えなければいけないほかの病気のこと)に上げなければなりません。発熱や嘔吐があれば感染性胃腸炎などもありますが、とにかく妊婦の腹痛は診断が難しくて困ることが多いです。ケースバイケースですね。

妊娠初期に飲んだ薬やレントゲン検査

妊娠の初期に薬を飲んだり、レントゲンを撮ったりすることがありますが妊娠5週くらいまではまだ胎児は細胞の塊ですので心配はいりません。5週以降は器官形成期といってある程度薬剤などに対して敏感になってきますので薬の使用は注意しましょう。現在市販されている薬で決定的に胎児に奇形を起こすものはありませんが、安全とも言い切れないので、ある程度の注意は必要だと思います(ただ、間違えて1回飲んでしまったなどは問題ないです)。

ではそれ以降に飲んだ薬や受けた検査はどうでしょうか?妊娠に気付かず検診でレントゲンを撮ってしまったとか、むかむかしたので胃の薬を飲んだとか、下腹痛のため市販の痛み止めを飲んだなどはしょっちゅう経験しますが、この程度であれば特に問題はありません。それよりは妊娠中のたばこのほうが問題です。妊娠したらタバコは必ずやめて下さい。揮発性の塗料(シンナーなど)もよくないですが、一瞬吸った程度なら全然問題ないです、しかし仕事で使うなど常時吸い込む状態は危険なので何らかの対策が必要です。薬剤を常に吸い込むような仕事もあまり好ましくはないでしょう。

妊娠中に気をつけること

妊娠初期に葉酸(ビタミン剤です)を飲んでおくと胎児の神経系の奇形が減りますからこれは飲んでおいたほうがよいです。妊娠16-20週くらいまで飲めばよいようです。

妊娠したらこうしなくてはいけないということは何もないです。おそらく大事なことは妊娠しても何も変えないと言う事だと思います。急に運動始めたり、突然安静にしたりする必要はないです。今までどおりのことを続けてください。

ただつわりが始まると、今までどおりにはなかなかいかないようになります。とにかく何をするにもきつくてだるくて、何もしたくなーい!状態になります。これは仕方がありません、誰でもなるので受け入れるしかないのです。問題は周りの人が受け入れられないということでしょう。会社などにはまだ妊娠したことすら言ってないという方もおられて、自分だけで悩んでいるということも結構あるようです。やはり早めに回りに報告して「つわりがきつい」ということは言っておいたほうがよいと思います。必要な場合は診断書を書きます。つわりはそのうち必ず治まりますので、とにかくこの時期を乗り越えましょう。

性交はお腹の痛みや出血がなければ普通にできます。そのような症状がある場合には性交はしないほうがよいですが、あまり神経質になって出血もないのに性交を全然しなくなるのもどうかなとは思います。

ところで重いものを持ったり、立ち仕事をしたりしてよいか?とか自転車や車に乗ってよいか?飛行機はいつまで乗ってよいか?お酒やコーヒーは飲んでよいか?などよく聞かれますが、何らかの異常があって胎児胎盤がうまく発育せず、子宮がそれを押し出そうとしているのが流産です、原因は胎児側にあります、重いものを持ったり立ち仕事をしたりして流産することは絶対にありません。自転車に乗ってもよいし車もよいです、飛行機も臨月でなければ問題ありません。

ただし出血や下腹痛があり、切迫流産や切迫早産の状態であれば話は別です。この場合は医師の指示に従って下さい。それ以外の健康な状態であれば妊娠中にしてはいけないことはほとんどありません。とはいってもマラソンやトライアスロンに出てよいかとは聞かれたことはないですが、これはやはりだめでしょう。柔道やレスリングのような体をぶつけあうスポーツもダメです。非接触性のスポーツならかなりできると思います。ヨガとか軽い水泳、散歩、ジョギングなら全然問題ないです。お酒やコーヒーに関してはいろいろ言われていますが、1日1-2杯程度のコーヒーやたまに飲むお酒で胎児に影響が出ることはないでしょう。一時期は母親が食べる食品で胎児のアレルギーの原因になるようなことが言われたことがありますが、母親はなんでも食べるべきだと思います。ただしたばこはだめです。アル中もダメです。

仕事はいつまで続けられますか?

切迫早産などでなければ、本来生むまで仕事は続けられます。おそらくその方が分娩も早くなり楽なお産ができると思います。産休などはないほうがよいと思っています。とにかくぎりぎりまで仕事をするのがよいです。仕事場で陣痛が始まったりしたらドラマっぽくていいですよね(周りが大変?)。最後まで仕事ができないのであれば一般的には36週までですが、38週くらいまではがんばってほしいですね。当院ではもうお産をやってないのであまり無責任なことは書いてはいけませんが、僕の単純な感想です。

妊娠中に気を付けたい感染症

妊娠中に感染すると胎児に影響する感染症がいくつかあります。

梅毒; これは妊娠中にというよりおそらく妊娠の前から感染しているケースが多いと思います、多くの感染症は妊娠中の初感染が問題になりますが梅毒は妊娠の前から感染していても胎児に影響します。放っておけば梅毒は胎児に感染し、生まれてくる赤ちゃんは先天性の梅毒症候群になります。14週くらいになると梅毒が胎児に感染し始めますのでその前に検査して陽性であれば14週までに治療してしまう必要があります。現在梅毒検査は妊娠10週くらいまでには行いますので十分間に合います。問題は病院に来られない妊婦さんです、妊娠したら早めに病院へ行きましょう。

トキソプラズマ症;猫の糞から感染することがあります、猫が初めてトキソプラズマに感染してからしばらく糞にトキソプラズマの卵が排出されます。猫の糞が土のなかにあることがあるのでガーデニングなどの土いじりをするときはゴム手袋をするようにしましょう。また、猫以外の動物は糞から排菌することはないですが、生肉に含まれていることがあるので馬刺しや牛肉のレア、生ハムなどは十分火を通してから食べるようにして下さい。胎児の症状は肝脾腫・脳内石灰化・水頭症・網脈絡膜炎などがあります。発症率は15%程度。重症な胎児奇形は妊娠初期の感染に多いといわれますが、胎児感染そのものは後期になるほど高いと言われており、妊娠の全期間に対して治療が必要 です。

風疹;いまだに流行があります、3日ばしかといわれ赤い発疹が胸やおなかにでき発熱します。風疹抗体価が少ない場合は熱を出している子供には近づかないほうがよいです。妊娠16週までの感染で発症することが多いとのことです。胎児への影響は胎児死亡・発育遅延・白内障・心奇形・精神遅滞などいろいろあります。

リンゴ病;頬が赤くなる流行病です。これも子供に流行しますが、それが大人にも感染します。妊娠中に感染すると胎児水腫を起こして死産になることがあります。妊娠20週くらいまでの感染の2.9%程度に発症するとのことです。

サイトメガロウイルス;風邪のような症状しかないので実際にかかったかどうかを知るのは難しいです。胎児への影響は、肝脾腫・黄疸・水頭症・発育不全・運動障害・難聴などです。唾液や尿などで感染するので小さな子供と同じスプーンを使ったり口移しをしたり、子供の食べ残しを食べたり、尿や便の処置で手に付着したりするのが危険です。これも妊娠の全期間に対して注意が必要です。

水痘;帯状疱疹ヘルペスによる感染です。妊娠20週未満で感染すると、皮膚瘢痕・目の異常・四肢の形成不良・精神発達障害などが生じるようです。ただし胎児障害の発症率は(20週未満の感染の)2%程度です。

 

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