婦人科の症状として実際に自覚されるものとしては出血やおりもの、下腹痛、生理痛、生理不順、外陰部のかゆみ、更年期症状などいくつかありますが、中でも出血は婦人科医が最も注意したい症状です。まず不正出血から始めましょう。
不正出血
婦人科でもっとも多くしかも重要な症状といってよいでしょう、考えられる病気もたくさんあります。もっとも恐ろしいのが子宮癌です。子宮癌には子宮頚癌と子宮体癌があります。詳しくは「子宮癌検診」の項で説明します。それから次ぎに心配なのが妊娠関連の出血です。これには切迫流産の出血から子宮外妊娠の出血など妊娠の進み方によりいくつかの病気がありますが、これもそれぞれの項で説明します。そのほか子宮の入り口の子宮腟部と言うところにできるポリープやびらん(これも別に説明します)からも出血することがあります、特に性交後の出血はポリープやびらん、子宮頚癌の可能性を考える必要があります。ホルモンの異常でも出血します、たとえば排卵期の出血や無排卵性の出血、更年期出血などです。
不正出血の場合はまず尿検査で妊娠の有無を調べます、妊娠でなければ次は子宮頸がん検診です(ただしあまり出血が多いと細胞が取れないので検診できないことがあります)。まずこの二つを調べることが重要です。あとは超音波検査や内診でそれ以外の病気がないかを調べます。一番多いのはホルモン異常です。これに関しては「生理不順とホルモン異常」の項で説明します。
しばしば血の色で判断される患者さんがいますが、血の色に良い悪いはありません、すべての血液は最初は赤いのです、それが腟内で酸化されたりおりものと混じったりして色が変わっていきます。あまり色にこだわる必要はありません。それよりは量と出血の期間が重要です。例えば大量の出血があれば流産や筋腫分娩(筋腫が子宮から出てくるのです)などを考えたり、少量の出血が長く続けばやはり子宮頸癌や子宮体癌の可能性を考えます(もちろん癌の頻度は少ないので違うこと多いのですが、まず悪いほうから考えます、医療とはそういうものです)。とにかく出血は診断が難しいので自己判断しないで産婦人科を必ず受診するようにしてください。
おりもの
次に多いのがおりものです、不正帯下と言います。これは腟内にいろいろな雑菌が繁殖して生じます。多いのがカンジダというカビの繁殖でかゆみを伴います。そのほかトリコモナスという菌(厳密には原虫と言います)はお風呂でも感染の可能性があり、性交でも感染します。男性の場合尿道炎を起こすようです。カンジダは基本的に男性に感染することはありません(包茎などがあると感染することがあるようですが)。ただし治療中は性行為は避けましょう。
最近の性病で多いのがクラミジアと淋病です。特に若い人でおりものがある場合は是非クラミジアを調べてください。クラミジアは卵管炎を起こしやすく将来不妊症になる可能性が高いので注意しなければなりません、はやく調べて治療することが大事です。クラミジアの特徴としてはおりものとなんとなく下腹部の痛みがあることです。ただし痛みがないこともあります、とにかくおりものが多いと思ったら婦人科を受診しましょう。たまにおりものにほとんど変化のないクラミジア感染があります、これはだいたいパートナーが泌尿器科でクラミジア感染と言われてわかることが多いです。ですから婦人科で見つけるのは難しいですね。
それと子宮頚癌や体癌などでもおりものが増えることがあるので、不正出血と同様少なくとも子宮頚癌検診は必要です、さらに経腟エコーで子宮体部を見て異常がないことを確認する必要があります。たまに悪臭を伴うおりものがありますが、タンポンの抜き忘れの時もかなりきついにおいになります、くれぐれも抜き忘れにはご注意下さい。怪しい時は早めに婦人科を受診して下さい、菌が増えすぎると敗血症という状態になることがあるそうです。そう簡単にはならないですが、なれば大変です。
下腹痛・腰痛
下腹痛と同時に腰痛を訴えられることが多いですが、腰痛は下腹痛に随伴することが多くて、腰痛そのものは婦人科的疾患の症状ではありません。例えば子宮筋腫があったり内膜症があったりしても腰痛にはなりませんし、卵巣腫瘍や腹水があっても腰痛にはなりません。おそらく下腹痛があると筋肉が腹部を防御するために腰痛を引き起こしているのではないかと思います。ひどい内膜症があると腰痛や足のしびれなど訴えられることがありますが、まれです。
したがって婦人科的に問題になるのは下腹痛です。へそより上の痛みは上腹部通と言ってこれは婦人科的症状ではありません。
腹痛で最初に考えるのがやはり妊娠です。妊娠すると結構おなかが痛くなることが多いです。子宮の収縮のこともあれば(切迫流産)、単に腸が過敏に動くようになって痛いということもありますし、子宮外妊娠の破裂ということも考える必要があります。したがって下腹痛の場合もまず妊娠検査をします。妊娠でなければ、次に経腟エコーを見て卵巣腫瘍の破裂や茎捻転、さらには骨盤腹膜炎(PIDと言います pelvic inflammatory disease)などを考えます。また排卵の時に腹腔内に出血して痛いということもあります、これがひどくなると卵巣出血と言います。そのあたりが異常なければしばらく経過観察ということになりますね。実際にはほとんどの下腹痛はもう少し様子見ましょうということにはなるのですが、まれに上記のようなこともあるので、やはりまず診察を受けることが大事です。
外陰部のかゆみや痛み
これも意外と多くて、本人はだいたい我慢できなくなって婦人科に来られますが、特にかゆみに関してはあまりひどくならないうちに受診されることをお勧めします。結構掻き過ぎて、もはや外陰部がはれ上がったようになって、そのことがさらにかゆみを引き起こしているような患者さんが来られます。こうなるとなかなか簡単には治りません(これは数週間でそうなるのではなくおそらく数か月以上かゆみを繰り返してそうなるようです)。とにかく早めの治療が重要です。
かゆみの原因で多いのはおりもののところでも書きましたが、カンジダ症が多いです、豆腐のカスのようなおりものが出ます、トリコモナス症もかゆいです、水っぽい黄色いおりものが出ます。ほかにもナプキンなどにかぶれることも多いですね。さらに閉経後に多いのは外陰掻痒症と言って、特に原因もなくかゆみがでます。おそらく女性ホルモンが減って外陰部の皮膚が委縮することが原因なのだろうと思いますが、皮膚の脂分を取ると良くないのであまり石鹸で洗うのは良くないです。むしろ油をつけるくらいがよいので、ワセリンなどを処方します。もちろんまずステロイドでかゆみをとることが重要ですが、その後はワセリンなどでケアして下さい。
外陰部の痛みで一番多いのはヘルペスですね。再発が多いですが初発の場合はかなり広範囲に潰瘍ができておしっこするのも恐怖になります(しみて痛い)し、発熱もします。それから毛のう炎もよくあります、大きなニキビと考えればよいでしょう。たいがいは抗生剤である程度よくなりますが、膿が溜まっているなら少し切開して排膿することもあります、また慢性化して繰り返すことも多いです。あまり多くはないですが、バルトリン腺膿瘍というのがあります。これはひどくなると外陰部のどちらかがピンポン玉くらいに腫れ上がります。痛くてまっすぐには座れません。ひどくなったら注射器で中身を抜いたり、切開して排膿したりします。切開するときは表面麻酔をしますが、麻酔のほうが痛かったとよく言われます。
生理痛
生理痛は生理の時に子宮が収縮して(痙攣しているともいう)痛みを感じる状態です。生理中は必ず子宮が収縮して血液やはがれた内膜を外に押し出そうとするので、多かれ少なかれ痛みを伴います。それがひどくなれば生理痛ということになります。病的なものを月経困難症と言います。生理痛を起こす原因として筋腫や内膜症が有名ですが、特に若い人の場合はそのようなものがなくて痛いことが多く、単純な生理痛だけのことが多いです。これは漢方薬や痛み止めで様子見ます(痛みがひどければピルも選択肢です)。もちろん年とっても筋腫も何もない生理痛は多いです。そうは言ってももしかすると何かあるかもしれないので、生理痛がひどくなって来たら若い人でも婦人科を受診したがよいでしょう。
生理不順(生理不順とホルモン異常、不妊症でも取り上げています)
生理が不順な状態です(そのまま)。どれくらいから不順かというと生理の始まりから次の生理の始まりまでの期間が(しばしば生理が終わってから次の生理が始まるまでの間を生理の周期と考えておられる方がいますが、始まりから始まりまでです)が25日から38日程度までは正常です(28日周期が普通といわれます)。それ以上もしくは以下の場合は不順といえますが、実はその期間の長短はあまり問題になりません、要は排卵していればよいのです、そして黄体期(基礎体温でいえば高温相)が10日以上あればなおよいのです。したがって周期は正常でも単に無排卵性の出血を繰り返していれば問題です、ということは基礎体温をつけないと生理が順調かどうかはわからないということになります。
月経前症
生理前になるとイライラして人に当たったり、落ち込んだり、集中できなくなったり、単純なミスを繰り返したり、むくんだり、1日中眠くなったりといろいろ症状はありますが、まとめて月経前症(PMS premenstrual syndrome)と言います。おそらく原因は黄体ホルモンと考えられていますが、よくわかっていません。昔は仕事している女性に多いといわれていましたが、最近はだれにでもあるようです。治療はなかなか難しいですが、漢方薬の抑肝散でイライラをとったり、加味帰脾湯などで心を安定させたりしますが、それでだめならピルを処方します。ピルにも黄体ホルモンが含まれていますから完全に月経前症はなくならないですがだいぶ良くなったと言われることは多いです。
更年期症状
40代後半になって女性ホルモンが減ってきて、体調を崩すのが更年期症状ですね、症状はいろいろです。中でも多いのは月経前症のようなイライラや落ち込みから肩こり、発汗、のぼせ、不眠、だるさなどいろいろです。これは更年期障害のところで説明します。