エコー検査
出生前診断というと羊水検査や母体血液による検査(NIPT;非侵襲性遺伝学的出生前検査 non-invasive prenatal genetic testing)を思い浮かべると思いますが、一番頻回に行うのはエコー検査です。羊水検査や母体血液検査が染色体異常しかわからないのに対して、エコー検査は主に胎児奇形を診断します。胎児奇形を通じて染色体異常が疑われることもあります。
妊娠10週くらいになるとだいたい胎児は人間の形になってきます。このとき頭や体がちゃんとあるかどうかを見ることで無脳児や大きな体の欠損や内臓破裂などがわかります。12週くらいで首の後ろに浮腫があるかどうかを見ます、浮腫があれば染色体異常や心不全などの循環器障害などが疑われます。さらに20週を超えると多くの臓器の奇形の有無がある程度わかります、特に生命にかかわるような奇形の多くはこの時期にわかることが多いです。上から脳室拡大、食道閉鎖、十二指腸閉鎖や小腸閉鎖、心奇形、腎のう胞、二分脊椎、腹水、肺水腫、胎児水腫などがわかります、最近は3Dエコーでさらに小さいところまで見る産婦人科もあるようです。ほかにも胎児の成長具合や羊水や胎盤の状態などエコーでわかる部分はかなりあります。
もはやエコーを見なければ産科はできません。ただやはりエコーは見えにくいこともあります、ですからこれらの異常も必ず発見できるとは限りません、僕も何回も見逃したことがあります。その都度反省してがんばっていますが、見逃しを0にすることはできません。御理解のほどよろしくお願いします。
トリプルマーカーテスト、クワトロテスト
トリプルマーカーテストやクアトロテストと言う血液検査があり、これで染色体異常をある程度疑うことができますが、これは確実な検査ではなく統計的な数字で確率を教えてくれます。したがってまったく心配ないという結果にはなりません、この検査で安心したいと思われるのであればちょっと無理です。ただし超音波などで胎児にちょっとした異常がありそうなときに羊水検査をするかどうか迷った場合は参考値にはなると思います。当院ではトリプルマーカーテストを希望される方にはしていますが、特にお勧めしているわけではありません。
羊水検査
胎児の染色体異常で多いのがダウン症ですが、これは高齢になるほど頻度が増えてきます。36歳の妊婦の0.3%に発症の可能性があると言われています。羊水検査による流産などの危険率が約0.3%程度ありますので、よほどダウン症の可能性が疑われない限り(たとえば過去にダウン症の児を出産したことがあるなど)あんまりお勧めの検査ではありません。40歳くらいになるとダウン症の危険性も増えますが、万が一検査で流産した場合次ぎに妊娠するのが難しくなる年齢ですので、検査をするかどうかは慎重に決めなければなりません。
羊水検査を行う場合は、普通妊娠の15週から16週くらいまでに行います。超音波で見ながら細い針をおなかの上から子宮に刺して羊水を抜き取ります。検査は細胞を培養しなくてはならないので結果が出るまでに2週間ほどかかります。16週で検査したら18週頃に結果が分かると言うことになります。当院では行っておりませんので、必要な場合は主に大学病院を紹介しています。
新しい出生前診断(NIPT)
最近話題の母体血液でわかる検査ですが、これはかなり高率に染色体異常がないことを診断できます。つまりこの検査で異常なければ染色体異常はほぼないと言えるということです、しかし異常があった場合はさらに羊水検査などをしないと本当に異常があるとは言えません(約70%の正診率だそうです)。この検査は簡易にできて信頼性が高いので逆に規制されていてどこででも受けられる検査ではありません。熊本では熊大だけです。万が一異常が出たときに十分なカウンセリングができる施設でなければこの検査はできません。ほかの検査も同じだと思いますが、やはりこの検査はそれだけ簡易で信用性が高いということなんでしょう。
染色体異常や胎児奇形がわかった時にどうするのか?
胎児治療は難度も高く日本ではあまり一般的ではないと思います。胎児奇形などが判明した場合は、お産の方法(経腟分娩か帝王切開か)を考え生まれたときの対処法を考えるということになります。それまでは特に何もしません。
もし妊娠中絶を考えられるのであれば、法律的には問題があります。日本には母体保護法という法律があります。これは母体を守るための法律で、その妊娠が母体に与える影響が大きい場合は妊娠中絶を選択できるという法律です。中絶ということは妊娠を継続しないということです、ということは胎児を母体外に出すということです、臨月ならお産にもっていくことになります。34週以降なら経腟分娩も可能でしょう、それ以前なら帝王切開になります。27週くらいで胎児は1000gくらいになりますからそれくらいなら帝王切開でも胎児はおそらくNICU(新生児集中治療室)で元気に育つでしょう。しかしそれより小さいとなかなか難しくなります。24週だと700gくらいです、これくらいになるとなかなかちゃんと育つのは難しくなります。さらにそれ以下だと極めて困難です。22週未満では現在の医療レベルでは救命するのは不可能と考えられています。したがって22週未満で中絶するときは帝王切開ではなくとにかく胎児を子宮から出すということになります、13週以下なら子宮内容除去術、それ以上なら経腟分娩になります。あくまでも母体を保護するために行う処置です。つまり胎児に奇形があるからと言って、染色体異常があるからと言ってその妊娠が母体に大きな影響を及ぼすのでなければ中絶することはできません。昔の優生保護法にはこの胎児条項というものがありましたが、それもある時期に優生保護法から削除されました。その後法律の名前自体が優生保護法から母体保護法に変わりました。
妊娠中絶手術について
妊娠中絶は母体保護法という法律に基づいて行われます。一般的に妊娠22週未満であれば通常の妊娠中絶手術の対象になります。母体保護法に定める条件としては、その妊娠および分娩が身体的および経済的に母体に与える影響が大きいというときに中絶を選択できるとしています。身体的な影響としては合併症のある妊娠でしょう、ひどい糖尿病や高血圧、腎臓や肝臓障害、心臓や循環器の病気、精神の病気なども条件によっては当てはまると思います、ひどいつわりも重症と診断されれば中絶の適応になります。もう一つの経済的な影響とは妊娠を継続し分娩することにより貧困に陥り、生活保護を受けなくてはならなくなる可能性がある場合などです。ほかにはレイプなどの犯罪による妊娠も中絶できます。中絶するときは必ず本人と配偶者の承諾書が必要です。ただしレイプや相手が死亡しているときなどは本人の同意だけで行われます。