ホルモン剤を使用する治療はいろいろとあります。たとえば生理不順の場合や不正出血が止まらない場合などにホルモン剤をよく使います。ここでは特に更年期以降に行うホルモン補充療法について説明します。
ホルモン補充とはその名の通り足りなくなったホルモン(女性ホルモンもしくはエストロゲンと言います)を補充してやる治療法のことです。英語ではHRT(hormone replacement therapy)と略します。特徴としては生理不順や不正出血に対する治療が短期間であるのと対照的に、ホルモン補充療法は比較的長期間にわたってホルモン剤を使用するということです。一般的に使用開始の発端となるのは生活に支障をきたす程度の更年期症状つまり、ひどい肩こり、のぼせ、発汗、さらには「やる気が出ない症候群」やうつ症状を含まない不眠やイライラなどですが、このような症状は治療を行っても短期間で完治するというものではないので、どうしても長期間使用することになります。
更年期症状に対する効果
更年期の症状を大きく分けると血管症状、筋肉症状、精神症状の三つに分かれます。
血管症状; のぼせ、冷え、発汗、動悸、息切れ、
筋肉症状; 肩こり、腰痛、おなかの張った感じ、頭痛(筋緊張性)
精神症状; うつ、いらいら、不眠、体がだるくてやる気が出ない、めまい、耳鳴り
これらの中でホルモン療法が非常によく効果を現すのはのぼせや発汗などの血管症状です。肩こりや頭痛などの筋肉症状に対してもある程度効果はあるようです(腰痛は難しいですね)。
精神症状はホルモンの減少だけが原因ではなくその他の社会的ストレスが重なることによって生じていることが多いのでホルモン剤だけで完治することは難しいです。やはり心療内科や精神科で診察を受けるのが良いでしょう。
骨粗しょう症に対する効果
骨は年を取るにつれてもろくなっていきますが、女性の場合更年期を境にして急激な骨塩量(骨密度ともいいます)の低下がはじまります。それまでは骨は男性よりむしろ丈夫なのですが、閉経後は逆転していき老人の骨粗しょう症は女性のほうが多いという結果になっています。つまり骨粗しょう症も女性ホルモンが減ることによって起こると考えられるのです。従ってこの時期に骨塩量の低下を防ぐことが老後の生活の質を良好に保つためには大切です。
ホルモン補充療法を骨密度の維持だけのために行うことはありませんが、更年期の時期にホルモン補充療法を行っていれば骨密度に関しては良好な結果を生むことになることは知っておいてよいでしょう。
ところでエストリオールと言う女性ホルモン製剤があります。これは女性ホルモンの中でも最もホルモンとしての効力の少ないものですが(最も強いのがエストラダイオールとうホルモンで、一般的に女性ホルモンといえばこちらをさします)、骨密度を良好に保つ効果は高いと言われています。女性ホルモンとしての効果は少ないので高齢の女性に老人性腟炎の治療としてよく使われますが、骨粗しょう症がある場合にも閉経後の女性に使われることがあります。以前は単独で使うことが多かったですが、最近はやはり子宮体癌予防のため黄体ホルモンと併用したがよいとも言われてきたので、黄体ホルモンと一緒に飲んでもらうようにしています。
動脈硬化に対しては?
動脈硬化は循環器系の病気を引き起こす元凶と考えられています。これも40歳代まではほとんどが男性の病気なのですが、更年期以降女性の動脈硬化が増えてきてこれも閉経後は男性と逆転してしまいます。明らかに女性ホルモンが減ったための症状と考えられます。現に女性ホルモンを服用すると血中コレステロール値は下がります、しかしホルモン剤の副作用の項で説明していますが血栓症のリスクが出てきますので結局心筋梗塞などの循環器系の病気は減らないと言う調査結果が出ています。つまりコレステロール値を下げるためにホルモン剤を使ってはいけないということです。
美容的効果
女性にとっては以上のことよりおそらくもっと興味あることかもしれませんが、女性ホルモンには肌をきれいにする効果があるようです。すでにできているシミをなくすことはできませんが、新たにシミが増えるのを防ぐ効果があり、肌に艶が出てきます。化粧ののりがよくなるといわれる方もいらっしゃいます。もちろん美容目的にホルモン治療を行うことはありません(若い女性のにきび対策にピルを使うことはあります)が、やむなくホルモン治療を行う場合には心の慰めになるかもしれません。
ピルや女性ホルモンを服用すると肝斑と言うシミができやすくなるとも言われますが、これは紫外線と関係するようです。美容効果があると言う話とは矛盾しますが、ホルモン剤を服用中は紫外線には気を付けたがよいかもしれません。
補足ですが、通常のホルモン治療で胸(おっぱい)が大きくなることはありません、大きくなったと言われる方もいますが気のせいです。