不妊症の原因のひとつに多嚢胞性卵巣(症候群)があります。一種の体質のようなものですが、不妊の原因としてよく見られますのでここで説明します。
なぜか最近多くなった多のう胞性卵巣症候群です、特徴は生理不順です。超音波で卵巣を見ると小さなのう胞がたくさん卵巣にあります、ですから多のう胞性なのです(そのままですね)。なぜそうなるのか? それは知りませんが、とにかく生理不順になります、ということは排卵しにくいということです。一つ一つののう胞は実は小さな卵胞です、ということは卵胞がたくさんできてもどれも大きくならないで卵巣の中にたまっているようなイメージです。それが本当かどうかは知りませんが、大筋では間違ってないと思います。
卵胞にはリクルートセオリーというものがあって、小さな原子卵胞がFSHで刺激されて大きくなっていくのですが、その時数周期にわたって刺激を受けて大きくなっていくというのがリクルートセオリーです、ちょうど高校1年生、2年生、3年生と刺激を受けて卒業して社会に出ていくように卵巣でもリクルートされているのです(ということですかね?)。各学年には数十個の卵胞(学生)があり刺激を受けます(授業)、その中でめぼしい卵胞が大きくなります、特に成績優秀な卵胞を主席卵胞と言います、最後はそれだけが刺激を受け(個別授業)そのほかの卵胞は消退していって、主席卵胞だけが排卵します(卒業)。自然周期ではだいたい1個が排卵しますのでそれ以外の数十個の卵胞はなくなってしまいます(高校はほぼみんな卒業しますから、そういう意味では卵胞は厳しい世界で生きていますね)。
そこでこの数十個の卵胞がそこそこ刺激を受けて小さな卵胞になって、そこで止まってしまっているのが多のう胞性卵胞症候群ではないかと思います(よくわかってないです)。昔は排卵できずに卵胞内にたまっているので、卵巣表面を傷つけてやると排卵しやすくなると言われていて、実際そういう手術をすることもありました(卵巣きつ状切除術)、最近でもしないことはないかもしれません、腹腔鏡でやるOvarian Drillingという手術ですが、レーザーで卵巣表面に多数の穴ぼこを開けます。実際こうやるとしばらくは排卵しやすくなりますが、そのうち元に戻ります。ま、病態はこの辺にしておいて(よくわかってないので)、要はどうすれば排卵するかに移りましょう。
特徴
多のう胞性卵巣症候群の特徴は生理不順です、不順なので生理がないことはありません。生理がなければ無月経です、これは生理不順とは違います。多のう胞性の場合は2-3か月に1回は排卵する人が多いと思います。中には年に1回程度という人もいるかもしれません。それとホルモン検査でLHという下垂体ホルモンが高くなります。したがって生理不順でエコーで卵巣にのう胞がたくさんあって、ホルモン検査でLHが高ければ多のう胞性卵巣と言えます。
ただ症候群となるともう少し条件が必要です。肥満や男性化兆候(多毛や嗄声→声が低くなる)、耐糖能異常(糖尿病予備軍のようなものです)などのどれかがあれば多のう胞性卵巣症候群になります。ただこれはどうも外国人には当てはまっても日本人の多のう胞性卵巣の人には当てはまらないようです。僕の経験ではほとんどの人がむしろ痩せ気味で華奢な感じの人に多い印象です、男性化兆候もほとんどありません。ただ、多のう胞性卵巣で肥満気味の人には男性化兆候があることが多いようです。したがって日本人の場合は多のう胞性卵巣という人は多くても多のう胞性卵巣症候群と言える人はあまり多くない印象です。
治療
一番はクロミッドで誘発してみることです。多くの場合クロミッドに反応します、これもなぜかはわかりません。ただやみくもにクロミッドを使うと卵巣が反応し過ぎて卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になることがあります、最初は少量から使用します。だんだん量を増やしていくことになります。1回でだめなら2回使うとよいこともあります。
最近はフェマーラという乳癌の治療薬が効くという話があり、僕も何回か使いましたが、あまり効いたという印象はないですね。それでだめな時は今度は注射を使います、rFSHという注射があります。実はこれは先ほどのFSHそのもです。頭についているrはリコンビナントと言って人工的に作ったというような意味です(厳密には遺伝子組み換え技術でできたものです)。これを少量ずつ注射します、そうすると卵巣がうまく反応してくれることが多いですね。とにかく、多のう胞性卵巣の治療は結構難しいです。下手に刺激するとOHSSを起こします。それは小さな予備軍の卵胞がたくさんあるわけで、過重な刺激ではいっぺんに卵胞が反応して数十個の卵胞ができてしまうわけです。OHSSは怖いです別項で説明します。