不妊症の原因

排卵因子

これは最も一般的な不妊因子です。要するに排卵があまり起こらないために、妊娠の機会が減っていると言うことです。まずどれくらいで排卵しているのかを把握する必要があります、基礎体温表がきわめて重要です。そして生理が始まって何日目くらいに排卵しているのかをチェックします。ふつうは14日目くらいです。生理から何日目かを英語でCycle Dateと言いますが、略してCD何日目と表現します、生理から14日目はCD14です。そのころ排卵するならその数日前から性交するようにすればよいのです。20日目以降に排卵する場合は待ち時間が長くなりますので、誘発剤でもう少し早めに排卵するようにしたほうが効率的だと思います。排卵誘発法についてはまた説明します。

排卵は基礎体温表で見ればおおむねわかります。基礎体温表が上がる直前が排卵日と考えられます。最近はスマホのアプリがあってあれで予想して性交されている方がいますが、数周期やって妊娠しなければアプリの限界を超えていると考えたがよいでしょう。アプリの予想の数日前から性交を始めるようにして、それでも妊娠しなければ産婦人科を受診して下さい。産婦人科を受診したら基礎体温は必ず基礎体温表に書き込むようにして下さい。特に僕は基礎体温表に必要な情報を書き込んでいきます、アプリでは書き込めないので表に書いてもらわないとダメです。基礎体温表に書き込めば問題点が整理しやすくなります。

卵胞排卵日を特定する方法は、まず基礎体温表でおおむねどれくらいで排卵するかを知り、その少し前に来院してもらいます。そこでおしっこの検査で尿中LH(排卵検査)を調べます。さらに経腟エコー検査で卵胞ができているかどうかを見ます、できていればその大きさを調べます。だいたい卵胞径が15㎜から20㎜になると排卵します。それから頸管粘液を調べます。これらを総合的にみて排卵日を推定します。これをどれくらいちゃんと当てられるかが、医者の評価の分かれるところではないかと思いますが、もう20年以上やってますが、やはり難しいです。今でも普通にはずします。

基礎体温表のつけ方基礎体温表

基礎体温とは体の動きが一番少ないとき(基礎代謝がもっとも低下した状態)の体温のことです。これは眠りからさめる少し前のレム睡眠期の体温に一致するとされています。しかしレム睡眠期の体温を自分で測ることはできません(なんせ寝ているのですから)、したがって目がさめてすぐに動き出す前に測ることで代用しているのです。夜勤のある看護婦さんなどは夜寝ないので基礎体温がつけられないと言われることがありますが、要するに寝ておきるとき(昼でもよい)に測ればよいのです、3時間以上寝ればおおむね信用できる体温になります。毎日同じ時間に測る必要はありません。

普通は基礎体温は低温相と高温相に分かれます、こうなればちゃんと排卵していることが分かりますし、生理の1日目から数えて何日目くらいで排卵するかもわかります。よく排卵の前に基礎体温が下がると言われることがありますが、これは必ずしもそうなるわけでありません、なることもありますが、僕の印象ではならないことのほうが多いです。ですから基礎体温が下がってから性交するようにしていると排卵と関係ない時に性交していることがよくあります。結局高温相になる前が排卵日です、となると排卵した後でないと排卵日はわかりません。ですから過去のデータからどの辺で排卵するかをまずつかむことが重要です。

排卵すると空(から)になった卵胞は黄色くなって黄体というものに変化します。実際に手術や腹腔鏡の時に卵巣の表面にできたての黄体が見えることがあり、結構黄色いですね。そこから出るホルモンが黄体ホルモンです、着床に強く影響すると考えられています。黄体ホルモンはさらに体温を少しだけあげます、これが基礎体温で言う高温相になります。0.3℃ほど上昇します、基礎体温表では低温相と高温相の間に鉛筆が1本入る程度と研修医の時に教わりました。この黄体は妊娠が成立しないと10日ほどで退縮して白体(はくたい)という今度は白っぽいものに変わります。これが卵胞のなれの果てで、役目の終わった白体はそのうち小さくなってわからなくなります。

黄体ホルモンは一気に出なくなりますので、そのとき子宮内膜はその構造を維持できなくなり出血とともに剥がれ落ちて生理になりますが、一気に減らずに少しずつ減ってくると生理前の不正出血になります。それからある時点でちゃんとした生理になったりしますが、こういうメカニズムなので生理前の不正出血は子宮癌検診さえ異常なければほっといて構いません。

基礎体温表を治療レベルで使うには実測値で測る必要があります、口腔内の体温を舌の下で調べるには5分間必要と言われます、したがって基礎体温表をつける場合は実測値で測れる体温計で5分間測って下さい。これが不妊治療の第一歩になります。基礎体温表がなければ、ナビなしの車で知らない街を旅行するようなものです。行き当たりばったりの治療になってしまいます。ぜひ基礎体温表をつけることに慣れて下さい、5分間は結構長いので2度寝しないで下さいネ。

男性因子

精液の正常値(ちょっと古いWHOの基準です)

2ml以上
精子濃度 2000万/ml以上
精子の運動率 50%以上

1mlあたりの精子数が1000万を切るようだとやはり通常の性交では妊娠しにくいようです。このような場合は人工授精や体外受精が行われることがあります(別項で説明します)。濃縮した状態で運動精子が1000万を切ると人工授精は厳しいです。500万を切ると通常の体外受精も厳しくなります。そのような場合は顕微受精を行います。顕微受精とは精子の1匹を細い針に捕まえて直接卵子の中にいれてしまって受精させる方法です。ちょっと強引な感じがしますが特に問題はありません。精液の中に精子が全くいない場合は睾丸内精子を細い針で刺して採取して顕微受精するという方法もあります。ただし当院では顕微受精は行っていません。

保険適用外の使い方ですが、排卵誘発剤であるクロミッド(クロミフェンが正式名称)半錠を24日ほど服用し1週間休薬するというのを繰り返すと精子が増えるという治療方法があります、誰でもうまく行くというわけではないですが、精子数が少ない場合は試してみる価値はあるかもしれません。漢方薬も効くことがあるので補中益気湯や八味地黄丸を処方することがあります。それとタバコや深酒、極度のストレスは精液にはよくないようです。夫が薬を飲んでいるが大丈夫かとよく聞かれますが、男性の場合は抗癌剤以外は問題になりません。痛風の薬でコルヒチンというのがありますが、これは抗癌剤の一種なのでよくないです。

子宮因子子宮奇形

 子宮筋腫や子宮奇形、子宮内の癒着症(中絶手術や流産手術をした後に子宮内が癒着することがある)があると受精卵の着床が阻害されます。このような状態を子宮因子と言いますが、多くの場合手術が必要です。診断には子宮卵管造影(HSG)というちょっと痛い検査が必要です。子宮筋腫なら筋腫を取る手術、奇形があれば奇形を治す手術、子宮内の癒着症は癒着している部分を切り取る処置をします。当院では診断までです、適切な病院を紹介します。

子宮の奇形に双角子宮というのがありますが、これは子宮が2個くっついたような形になっています。完全に2個だと重複子宮と言います、出口が1個なら双角子宮です、もしこれで子宮が1個なら単角子宮です。これはどれもふつうに妊娠もお産もできます、妊娠しにくいのは双角子宮の間が中途半端になって中隔子宮になっているときです。これは手術が必要と言われています、おそらく普通に妊娠するのは難しいのではないでしょうか(よく知りません、知らないで勝手に妊娠している人がいるかもしれません。不妊にならなければ検査をしませんから普通に妊娠している人に双角がないとは言えないですね、ただ中隔子宮を手術すると普通に妊娠されるのでやはり中隔は妊娠しにくいのでしょう)

卵管因子卵管水腫

両方の卵管がつまっている場合です。これも子宮卵管造影(HSG)をすることにより診断できます。片方だけならほとんど問題ありません。左の卵管がつまっていて左の卵巣から排卵しても右の卵管から取り込まれます。卵管は結構動くようなのです。卵管閉塞の原因として最も多いのがクラミジア感染症ですがこれは別項で説明します。卵管閉塞の治療としては卵管の出口がつまっている場合は腹腔鏡などで開窓術をするとよいです(電気メスやレーザーで穴をあけるだけです)、しかし手前のほうでつまっている場合はなかなか難しいので体外受精のほうが間違いないと思います(卵管鏡というのがありますが、あまりうまく行かないようですが・・)。

ただ出口がつまっていても卵管がはれ上がってウインナーのようになっている場合(卵管留水腫や留膿腫)には卵管の内部に慢性的な炎症があり、そこから着床を阻害する物質が子宮内に流入するということで、開窓術をするより手術で切り取って体外受精をしたほうが良いというのが一般的のようです。ですからこの場合は片方でもよくないということになります。

さらに子宮卵管造影検査でわかるのですが、卵管の周囲が癒着しているような場合も妊娠しにくくなります、卵巣から排卵した卵子が卵管に取り込まれないのです、癒着していて卵管が動けないからです。これも手術よりは体外受精のほうが良いようです、それは腹腔鏡で癒着剥離術をしてもまた癒着すること多いからです。癒着剥離術は一度はやってみる価値はあると思いますが、2度目はないでしょうね。

着床因子

 受精卵が子宮内膜にくっつくことを着床すると言います。いろいろな検査を行っても異常がない状態を原因不明不妊と言いますが多くはこの着床がうまくいってないのではないかと考えられています。たとえば体外受精では受精していることは顕微鏡で確認していますので、それを子宮に戻して妊娠しない場合は着床しなかったからと言うことになります。現在のところ人工的に着床させることはできません。

 排卵誘発法と体外受精が原因不明不妊の場合に有効であることがわかっています。受精卵を多く子宮の中に移植するほうが妊娠率は上がります。と言っても限度がありますが、産婦人科学会では多胎妊娠を防ぐために1度に2個以上の受精卵を移植することを禁じています。昔はふつうに3個くらいは戻して(移植して)いましたが、やはり多胎妊娠が多いということで移植数を減らすことなりました。

数が増えると妊娠するということは、受精卵(胚と言います)と子宮内膜との間に何らかの相互作用があって、その作用が単独では弱いので着床できないでいるようなイメージかなと思います、実は僕は研究生の時に着床の研究をしていたのですが、結局、皆目見当がつかないまま終わってしまいました。当時いろんな遺伝子(LIFやインテグリンなど)が着床にかかわると言われていましたが、どれも動物実験ではそこそこの成果があっても、人間では着床に関与していると立証できた論文はありませんでした。

そうこうしているうちに、アメリカの代理母の研究から、どんな子宮でも若い卵は着床するという結果が出ました。これはショックでしたね。結局は卵ということになります、10代の子の卵は90%くらいの確率で妊娠するそうです。そういう報告が出るようになって、着床の研究って何なんだろうと考えるようになり、日本ではこれ以上の研究はできんわと居直ってしまいました。その考え方から行けば治療の行きつく先は若い人の卵の核と不妊の患者さんの卵の核を入れ替えるか、若い人の卵の細胞質を注入してみるとか、なんか結局卵そのものの治療になってしまいそうな気がしたのです、これはどう考えても大きな問題があります。ただ動物では核の入れ替えはふつうに行われている技術ですから、人間でできないことはないと思いますが(どうやってやるのかは知りませんが)、やはりやってはいけない技術ではないかと思います。

しかし、最近思うのですが、ということは体外受精で原因不明不妊の患者さんが妊娠するのは、いい卵を選別しているからではないかと考えるようになりました。つまり、ふつうは誘発しても2-3個しか卵はできませんが、体外受精の場合は過剰に刺激して5個から10個近くを取って、それを受精させ、その中から選りすぐりの胚を複数個子宮に戻すのですから、妊娠の効率は良くなるはずです。それが体外受精の目的なのかなと思うようになりました。実際に卵を取ってみるとどれも同じではありません、良い悪いがあります。何回も体外受精をやって妊娠される方もいます。ということは良い卵はどっかにあるのです。

なんとかして良好卵を探し出さなくてはいけないわけですが、そのためにはやはり1回の採卵で5個から10個近くは卵がほしいかなと思います。あまり多いと(過剰刺激)不良卵ばっかりになるようなイメージがあります、しかもOHSS(卵巣過剰刺激症候群)にもなりますから、やはり5個から10個程度を目標にするのが良いかなと思っています。ただなかなか卵が取れない場合もあります、せいぜい2-3個、もしくは1個しか取れないというときは胚の形態(グレード)次第ということにはなります。もちろん体外受精の場合着床因子だけが原因とは限らないので、ピックアップ(排卵した卵が卵管に取り込まれること)や受精卵の移動(卵管から子宮内に移動する必要がある)に問題がある場合は1個でも妊娠は可能ということになります。

 

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